●3・ゲームのしくみ3要素

 3回目は、ゲームのしくみを考えます。

 しくみの例として、まず、おばけ屋敷を考えてみましょう。

 おばけ屋敷にまず入ると、暗くドロドロとした雰囲気が演出されています。
 ここでお客は緊張してきます。
 お化けが出てくるのが予期されるからです。

 なにかが起こることが分かっている。
 どこからなにが出てくるか…。

 薄暗く、ロウソクの匂いのする道を、探るように手をつきながら、ドキドキと心拍数を上げつつ進む。
 まわりからは女性の恨みの声や叫び声が聞こえてくる。

 このとき、人は驚くまいとして注意力を上げようとしますが、注目すべき「存在」「しかけ」が暗くてわからないので混乱します。
 いつ、どんなタイミングで「それ」が出てくるのが分からない。
 だから緊張します。

 バコーン!!(天井の開く音)
 「ひっ!!」

 「グワアアアアア!!」
 大音量とともに、天井から血まみれの貞子がドライアイスの冷気とともに出現!!
 しめった髪の毛がお客の顔をべっとりとなでる!!
 「うっわああああ!! ぶはっ! なんじゃこりゃあああ!!」

 予期しないところから貞子が出現し、驚くお客!


 さて、ゲームもお化け屋敷と似ています。
 エンタテインメントはすべて、「人の感情を動かすのが仕事」だからです。

 お化け屋敷が人を驚かせる(感情を動かす)ために使った要素は、どんなものがあったでしょうか。

 筆者は以下の3つがあると考えます。

1・世界観(雰囲気)
2・状況(繰り返し)
3・インパクト(驚き)


 以下に書いていきましょう。

▼世界観(雰囲気)

 「ヒュー…ドロドロドロ…」という音。
 ヒンヤリとして、薄暗い館内。赤い怪しい光。ブヨブヨする足元。
 血まみれのお化け。人間でない得体の知れない生き物。

 お化け屋敷にはよくある演出ですね。

 こういった演出はすべて、ある「世界観」を作り出すためにあります。

 世界観はある目的のために作られる。
 ではその目的とはなんでしょうか?

 お化け屋敷の場合は分かりやすくて、お客を怖がらせ、驚かせるのが目的です。
 お化け屋敷のあの演出は、すべてその目的のために用意されています。
 つまり世界観に「驚かせるため」という一貫性があるのです。

 では、これがよくある中世RPGの場合はどうでしょうか?
 あの世界観はなにが目的なのでしょうか?

 ああいった世界観は非常に複雑に構成されています。
 てっとり早く言えば、人の嗜好性、人が好む雰囲気をいろいろ組み合わせて、1つの世界観にし、人を惹きつけようとする目的があります。
 (ただし、明確な目的をもたずに世界観を構築することがほとんどだと思います)

 人が好む雰囲気はさまざまですが、色、肌触り、におい、味、音など、五感で表現すると強く印象に残ります。
 映画監督のリドリー・スコット氏の作る映画は、「雨が降りじめじめして、薄暗く、静か」という五感を刺激する記号が共通してあり、独特の雰囲気を作り出します。

 世界観の魅力は、

 「いくつ自分の嗜好性と合っているものが組み合わさっているか」

 によります。

 ここで誤解をしないように注意したいのが、中世RPGの共通項である、剣と魔法、鎧、クリーチャー、冒険、魔族、種族、といった概念は、嗜好性ではないということです。
 これらは単なる共通記号です。
 魔法は広がりのあるバリエーションを生み出す概念的な発明ですが、これも世界観を演出するものに過ぎません。

 中心となるのは、感情を動かす要素、生と死、愛、力、忠誠心、戦い、犠牲などです。
 これらは物語という「状況」の流れによって語られます。
 その状況の舞台となった世界が、記号として魅力を帯びるのです。

 剣、魔法、登場人物など記号的な概念は、その物語に散りばめられた分かりやすい「名詞」です。
 物語が語られた「状況」のような曖昧なものよりも、「名前」のついたもののほうが覚えやすいので、その世界観の象徴として覚えているのです。
 ですので世界観をイメージすると自動的にそれらの記号を思い出します。

 ちょっと脱線してしまいました。
 まとめると、世界観は「物語のイメージ、魅力的な記号の組み合わせ」ということになります。

 組み合わせはなかなかバランスが難しく、よい世界観を作るにはセンスが要ります。

 吸血鬼の世界観は「吸血」「コウモリ」「貴族」「十字架」「ハンター」「白くひんやりとした肌」などの記号の組み合わせでできています。
 吸血鬼の世界観は、伝統と歴史を作るまでに昇華されるほど、人を惹きつける素晴らしいバランスで出来ていると言えるでしょう。

▼状況(繰り返し)

 ゲームは必ずある行動の繰り返しになります。

 というのも、コンピュータ・ゲームはプログラムで出来ており、プログラムは「メイン・ループ」と呼ばれる、同じ動作を繰り返すための構造を必ず持たなければいけないからです。
 このためゲームは、歩いたり、走ったり、撃ったり、コマを移動させたりなど、必ずなんらかの繰り返しになるのです。
 この繰り返しの連続の中に、面白さを入れ込んでいく必要があります。

 お化け屋敷は、入り口から入り、出口へ出るために歩かなければいけません。
 途中で幽霊を怖がったり、突然噴出すケムリに驚いたりしながら、「歩くこと」を断続的に繰り返すわけです。

 「いつお化けが出てくるんだ!?」
 「今度はどこから出てくるんだ!?」

 お客はこういった気持ちで緊張しっぱなしです。

 このように、繰り返しの中である感情が断続的に続くと、ゲームは非常に面白いものになります。
 それを実現するには、感情を刺激する「状況」を作り出すことです。
 状況とは、連続した時間の流れによって変化する物事の様子をいいます。

 FPS(一人称視点のシューティング)系のネットゲームはなぜスリリングか? というと、マップを移動している間はいつ敵に狙われてもおかしくない状況が続き、非常に緊張感があるからです。

 「ゼルダの伝説」がはなぜどんどん先に進みたくなっていたかというと、あるアイテムを手に入れることで、今まで行けなかったところが行けるようになり、「あそことあそこが行けるようになっているはずだ!」と、それを確かめにいく状況が途切れることなく続いたからです(任天堂の製品はこの構造をもうスーパーマリオ発売以来使っています)。

 PCで大ヒットした「ディアブロ」は、プレイヤーのまわりが暗くて少ししか見えなくなっており、お化け屋敷とそっくりです。
 なおかつ敵の量とヒットポイントのバランスが絶妙でした。
 一気に進むと大勢の敵に囲まれ、非常に危険な状況になるので、慎重に慎重に、緊張しながら進む状況が作られていました。

 このようにゲームにおいて、繰り返される状況に「ある感情」を生み出す構造を入れることは非常に重要です。
 ゲームの面白さの80%を左右すると言ってもいいでしょう。

 よく見かけるゲームデザインの失敗は、とにかく一発ネタのアイデアをどんどん盛り込んでいき、結局物量勝負のゲームになってしまうというものです。

 量は質に転化できますが、それは相当な物量を作った場合のみで、たいていの場合は半端に終わり、労力に見合った見返りを期待できない場合が多いのです。

 「ある感情」を感じさせる構造を作る、これをゲームのコンセプトにすべきです。

 頭を使い、常にプレイヤーの「ある感情」が途切れない構造を考え出すほうが、コストが安く済みます。
 これは会社にとって有益です。
 スタッフにとっても、重労働をする可能性が減るわけですから非常にいいことです。

 そしてなにより、この構造を実現したゲームは面白くなります。

 だいたいゲーム業界は徹夜の多い業界ですが、徹夜しても売れなければ努力は水の泡です。努力が無になって、「おれって、なにやってるんだろうなあ…」と変な悟りを開いて業界を辞めていく人は後を絶ちません。
 この悪循環をなくすためにも、ゲームデザイナーが頭をひねる必要があります。


▼インパクト(驚き)

 お化け屋敷は驚きのオンパレードですが、そのすべてが衝撃的なわけではないですね。

 「おーう、ちょっとびっくり」
 「おもしろーい」
 「こんなんじゃ驚かんって」
 「どうせ人が入ってるんでしょ…」


 そんなしかけもたくさんです。
 これではいかに「世界観(雰囲気)」や「ループ(状況)」が、うまく作られていても興ざめですね。

 ゲームに爆発的なインパクトを盛り込むことは、ゲームに大ブレイクのトリガーを仕込むのと同じことです。

 「バイオハザード」で大ブレイクのトリガーになったものはなんでしょうか?

 「バイオハザード」は、「世界観」、緊張感のある「状況」ともに非常によく出来ていました。
 ゲームに入っている要素が、すべて恐怖を演出するという目的で貫かれていました。

 しかしながら、「あの」インパクトのトリガーが無ければ、おそらく十数万本売れて終わりだったのではないでしょうか。

 プレイを始め、最初のゾンビを倒し、その後しばらく部屋を探索したけれど、次のゾンビがいないので少し緊張が取れてきたところに…。

 「この廊下は奥まで見渡せるけど、ゾンビはいないみたいだ…」

 と、安堵の気持ちで廊下を進むと…。

 「ドガシャアアアアン!!」
 ガラスが割れる大音量とともにゾンビ犬が出現!!
 犬に噛みつかれて大慌てのプレイヤー!
 「うおおおお!!」


 なんとかドアまで行き、次の部屋で大安堵…。

 これには多くのプレイヤーが心臓が飛び出るほど驚いたことでしょう。

 このインパクトがあったおかげで、

 「とにかく少しやってみればわかるよ。すげえことが起こるから!!」

 などと、口コミも生まれました。
 上のセリフは、実際著者が友人から言われた言葉です。

 そういうことを言われると「あんな興奮するほど面白いのかな…?」と気になって、機会があったらプレイしてみよう、と思うようになるわけです。
 そうすると次に量販店に行ったとき、手にとってしまうわけですね。

 何度も書きますが、ゲームに爆発的なインパクトを盛り込むことは、ヒットのトリガーを入れるのと同じです。

 それでは、爆発的なインパクトをどうやって実現すればいいのでしょうか?

 以前ウェブで、なんの変哲もない風景のgif画像が「なにかが隠されている」というコメントともに貼られていました。
 「なにがあるって…?」と目をこらして探していると、突然幽霊の絵が出てきて「うお!!」と驚かされたんですよ。
 イタズラアニメ画像だったんですね。

 種明かしすると、gifフォーマットの画像はアニメが可能で、しばらく間を空けて幽霊がアニメするようになっていたのです。

 その後このアニメ画像は大ブレイクし、亜流のgif画像やFLASHまで出てきて、けっこう流行ったのです。今でも新たな亜流がたまに作られるほどです。

 このアニメ画像には「人を驚かせる最小限のしくみ」があります。

 弛緩させてから、意外性で緊張感を生み出す。
 名づけて「インパクト構造」

 徐々に緊張させて最後に一気に弛緩させる「カタルシス構造」の逆ですね。

 この構造がインパクトを生み出すセオリーです。


 さて以上がゲームのしくみを作る3要素でした。

 魅力的な世界観とは?
 どういった感情を揺さぶる状況を作り出すか?
 どんな内容のインパクトを狙うか?

 それぞれを押さえつつ、一貫性のあるゲームを考えてみてください。

(おわり) 前へ <

 さて、特集「面白いゲームの3要素」、いかがだったでしょうか。
 感想はこちらまで。

 もっと具体的な内容は、これから刊行される特別レポートにて公開していこうと考えています。
 既刊「GameDesignTips48」にもいくつかの内容が書かれています。
 興味のある方はどうぞ。
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