ノベルゲーム「Collage」製作者のコミネトさんが、ゲームについて語ります。

■コミネトのノベルゲームノート

第1回 『ごあいさつと、あるノベルゲーム製作者の記録』
第2回 『ノベルゲーム製作プログラムの壁』
第3回 『ストーリーメイキング』
第4回 『ストーリーメイキング2』

第5回 『ストーリーメイキング3』
第6回 『システムメイキング』
第7回 『今までにないノベルゲームを求めて1』

第8回 『今までにないノベルゲームを求めて2』

第3回 『ストーリー・メイキング』
●ノベルゲームとは

 ノベルゲームとはまさに“ノベル”のゲームなので物語、要は小説の部分の面白さが評価の九割を決めてしまいます。

 ノベルゲームをゲームと呼べるのかとの議論もありますが、確かにノベルゲームは相対的にはゲームの要素は少ないかもしれません。

 ノベルゲームと言うのはゲームと言うより一種の表現スタイルだと思います。

 これは漫画が好き、小説が好き、映画が好き、などと同様にノベルゲームが好き、と言う場合はそのゲームシステムよりも、パソコンで画像の上に表示されたテキストを読む感じが好きという意味だということです。

 とは言っても、やはりゲームとしてのノベルゲームの魅力は大きいです。そういうことに関しても、いろいろと考えてみたいところではあります。


 ただその前に!


 面白い物語の作り方について考えてみたいとと思います。どんなにシステムが良くても、この物語が面白くなければ評価はされませんね。車はエンジンだけでは動かないというわけです。


●面白い物語とは?

 物語の面白さというのはいろいろは要素があるとは思いますが、若干強引に単純化して考えてみたいと思います。


 そのキーワードはカタルシスです。


●カタルシスとは?

 カタルシスとは何ぞや?言い換えると“痛快さ”とでもいいましょうか。

 もっと具体的にいいますとこれです。


 水戸黄門が印籠を出す瞬間!


 これ、カタルシスですね〜、痛快です。これだけで30年以上やってます。

 では、このカタルシスとはなんでしょうね?

 いくつか例をあらすじとして示したいと思います。



   【その一】


ある女の子、その子はいつも主人公にツンツンしていた。

主人公はちょっとばかり彼女のことを気に入っていたのだが、おそらく自分のことは嫌いなんだろうと思っていた。

しかしあるきっかけで、なんとその子が主人公のことを好きだということが分かったのだ!


 どうです?カタルシスですね〜これ、“ツンデレ”です。

 “ツンツン”でもだめだし、“デレデレ”でもだめなのです。



   【その二】


ある村に住んでいた主人公はある特殊な能力を持っていた。しかしそれは何の役にも立たない能力だった。

村人達は、むしろその能力を小バカにしていた。

ある日、突然怪物が攻めてきて村の娘をさらってしまった。

村人達は途方に暮れていた。

しかし、主人公の機転とその能力によって、その怪物を倒すことが出来たのだ。

主人公は娘を救い出し、今までバカにしていた村人達は、その行為を侘びた。


 自分の能力や才能を発揮したいということはみんな思っていることだと思います。ですから物語の主人公も、その能力を発揮すればとてもカタルシスを得ることが出来ます。

 ただ、その前に前フリとして、その能力が何の役にも立たないという評価を周りのみんなに植え付けておいて、しかしながらある場面で、どの能力を発揮して敵を倒したらそのふり幅によって、よりカタルシスを得ることが出来る訳です。

 ばかげた能力であればあるほど面白い話になると思います。それをいかせるシュチエーションを考えるのがミソですね。

 たとえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と映画では、主人公にギターとスケボーという二つの能力を与えられていますが、物語前半ではまったく評価されない能力として設定されています。しかしスケボーは物語中盤のもっとも盛り上がる場面、ギターは終盤のもっとも重要な場面でその能力を発揮することによって、困難を乗り切るという場面が作られています。

 この映画は非常に面白いので、見たことがない方はぜひ見てください。



   【その三】


主人公はある会社の平社員である。

彼の上司である部長はその立場を利用して、主人公に執拗につらく当たった。

部長は自分の言うことを聞く主人公に、ある不正会計操作をして裏金を作るように命じた。

主人公が断ると「言うことを聞かないと首だぞ!」と言って彼を脅した。

主人公は仕方なく、不正会計操作をおこなった。

部長はいい使い捨てのコマが出来た。問題が起きればすべて主人公に罪を着せればいいとほくそえんだ。

しかし、ある日の役員会議、今の社長が退いて、その息子が新しい社長になるとの発表がなされた。

その人物はなんと主人公である平社員だった。

部長はびっくりして腰を抜かす。

主人公は修行のために、立場を隠して、平社員として働いていたのだ!

主人公は部長の肩を叩いて言った。「お前は首だ」


 これも痛快だと思います。水戸黄門もこんな感じですね。


 と、まあほかにもまだまだいろいろあると思いますが、ここではこれぐらいにしておきます。

 これらの話はある共通点があります。それは逆転です。

 簡単に表しますと、

 その一 気がないと思っていたあの子が、実は気があった
 その二 役に立たないと思っていた能力が、実は役に立った
 その三 格下だと思っていたら、実は格上だった

 となります。

 つまり物事の感情、能力、立場などが逆転することによってカタルシスを得るわけです。

 その逆転幅が大きければ大きいほど、そしてその物事が変化しにくいものであればあるほど、カタルシスを得ることが出来るというわけです。

 出来ないと思っていたことが出来た、これがカタルシスですね。

 逆に出来ると思っていたことが出来なかった、これは逆の効果を与えることが出来ます。アンチカタルシスとでも命名しましょうか、これも実は物語には結構使えます。

 先ほど述べましたが、逆転幅は大きければ大きいほどいいのです。

 つまり、主人公を一度このアンチカタルシスでどん底に落としておいて、そのご主人公の努力によって、困難を克服し、達成させるとより大きなカタルシスを得られることになるわけですね。

 一回落としてから持ち上げる、といった感じですね。


振り幅が大きければ大きいほど、カタルシスは増大する。


●感動

 感動とはより、振り幅の大きなカタルシスだといえると思います。

 なのでやはり何かを逆転させることによって得られるものだと思いますが、ただちょっとそれプラス、ひと工夫が必要ではないかと思います。

 ではそれはなんでしょう?これもいくつかあると思いま、具体的にいくつか挙げてみたいと思います。

■時間

 時間が経つということは当然いろんなものが変化してしまうということです。

 しかし、そんな中で変化しなかったものがあったとしたら、ちょっと感動しませんか?

 これを主題とした映画があります。それは『幸福の黄色いハンカチ』です。

 この映画で変わらなかったもの、それは“愛情”です。見たことのない方はぜひ確認してみて下さい。


 変わらないのなら逆転じゃないじゃないか!と思うかもしれませんが、それは客観的に見ればそうなります。

 しかし重要なのは主人公の心の中です。主人公が当然変わっているだろうと思い込んでいたものが変わっていなかったとすれば、それは十分逆転現象です。

 つまり“変わっているだろうと思っていたら変わっていなかった”となります

■隠された真実

 人間というのは誤解されることを恐れます。やっていない悪事をやっているなどといわれるのはとても辛い事です。

 名誉のために死を選ぶ人間もいるぐらいです。

 しかし、あえて大きな目的のために、自分はぬれぎぬを着ようとした人物がいたとします。

 そして後日そのことが明るみになり。その人物の名誉が回復する。

 これはとても大きな感動だと思います。

 つまり自己犠牲ですね、これも感動の要素です。

■死

 親しかった人の死というのは大きな悲しみですね。特に突然の死というのはインパクトが大きいです。

 悲しみ=感動というわけではないとは思いますが、とても感情が動く分、感動を呼び起こすことができます。

 ただあまり安易だとあざとく思われるので、難しいものでもありますね。

■死からの復活

 人間が生き返るというのは普通はありえません。

 であるがゆえに、そのようなことが起こったとしたら、大きな感動になると思います。

 実際に生き返らなくても、擬似的に生き返る、たとえば霊であったり、または生前に残したメッセージだったりしてもいいでしょう、これらはあくまでも一瞬の復活ですが、それでも死んだ人にもう一度会ってみたいというのは親しい人間に死なれた人の切なる思いだと思います。


 ここで、この四つを全部使ったあらすじを書いてみたいと思います。


   【感動の要素四つを使ったあらすじ】


主人公は医者だった。彼はある薬の開発をしていた。

そのクスリは、人間が植物状態になってしまうというある難病を治すための薬だった

しかしまだまだ実用化できる状態ではなかった。

主人公には結婚を約束した恋人がいた。彼女は主人公の共同研究者だった。

二人は週末にダンスをするのを楽しみにしていた。

あるとき事件が起こる、自宅から研究データがぬすまれたのだ。

盗んだのが主人公の恋人だと分かる。

恋人はライバル会社からのスパイであると告白した。

恋人はじつはライバル会社に本当の恋人がおり、その人物の出世のために利用しようと主人公に近づいたのだ。

恋人は主人公をあざ笑い去っていった。主人公は失意のどん底に落とされた。

その後、主人公はその悲しみを忘れるために研究に没頭させることに時間を費やした。

……そして50年の月日が経った、主人公は結婚し、子供を生み、妻には先立たれた。

そうしてやっとあの薬が完成させたのだ。

そんな時、主人公に手紙が来た。ある病院からだった。

その病院に行ってみる、なんとそこには50年前に自分を裏切った女性がベッドで寝ていた。意識はない様子だった。

そう、彼女はあの難病に冒されていたのだ。だから主人公にあんな嘘をついて身を引いたのだ。

主人公は彼女に薬を打った。彼女はゆっくりと目を覚ました。

二人は50年ぶりのダンスを楽しんだ。

三日後彼女は静かに息を引き取った。



●カタルシスの抽象化

 これまでに書いて来たのは、物語の要素を簡略化して書いたものです。

 もちろんこれですべてという訳ではありませんし、人それぞれあると思います。

 これらはカタルシスの抽象化といえると思います。

 なにか面白い映画などメモ片手に見ながらカタルシスの抽象化を行うことによって、ほかの作品の面白いエッセンスを盗み出すことが出来るのではないでしょうか。

 これらは何度でも再利用できますので、効率的な物語製作が出来るようになると思います。

物語の要素をコレクションすることによって、より効率的にお話を作ることが出来るのではないか?


(続く)
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